溶接ヒュームとは、アーク溶接中の溶融池や溶接ワイヤー等から生じる金属蒸気から発生する、ナノ~マイクロメーターサイズの微粒子であり、これを溶接作業者が吸入し続けた場合、じん肺やパーキンソン病等の深刻な健康被害を生じる事が従来より指摘されている。本課題では、実験と数値シミュレーションの両面から、金属蒸気成分やシールドガスの反応性が溶接ヒュームの生成機構に及ぼす影響を解明すると共に、吸入時に人体への危険度が特に高い微小粒子の含有率を低下させ、更に防じんマスクでの捕集率も向上させる為の粒子径・粒子形状の制御技術の開発を試みている。 平成23年度は、主にヒュームの材料成分を変化させ、蒸気成分が溶接ヒューム特性に及ぼす影響を中心に調査した。実験及び数値シミュレーションを引き続き実施した。そして、平成22年度と平成23年度の研究成果のとりまとめを行っている。ヒュームの材料成分については、鉄に代表されるような溶接ワイヤーや母材に含まれる成分を中心に用いるほか、添加物の候補となりうる他の成分についても併せて検討した。具体的な手順としては、まず、不活性ガスである純アルゴンガスまたは純ヘリウム雰囲気中にて、様々な成分の材料を用いてヒゴームの生成を行い、各成分の基本的な特性を調査した。続いて、不活性ガス-二酸化炭素混合ガスを用いた場合の酸化の影響についても調査した。その結果、ヒュームの材料となる成分の物性のうち、飽和蒸気圧等がヒュームの粒子形状に影響を及ぼすことが判明した。
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