研究概要 |
本研究は,食料生産に重要な役割を果たす肥料を高付加価値化させる技術の開発を目指して,噴霧乾燥法により化学的に安定なリン酸カルシウム(水酸アパタイト)で可溶性物質を包含した組成傾斜粉体の合成を目的としている.この組成傾斜粉体の生成メカニズムは,2種類の溶解度の相違する物質が溶解した溶液を噴霧乾燥させることで難溶性の物質が先に外壁として外側に析出し,溶解度の高い物質は遅れて内部に析出するメカニズムを利用している.本研究では第一段階として,基礎的知見を得るために難溶性の水酸アパタイトを可溶化して調製した溶液に,高溶解性のアセスルファムカリウムを添加し噴霧乾燥を行ったところ,内部に不定形粒子が充填した粒径2μm程度の球状粒子を得た.この内部をEPMAにて分析したところ,水酸アパタイトに起因するカルシウム(Ca)はおもに粒子外周に存在し,アセスルファムカリウムに起因する硫黄(S)が内部に向けて組成を傾斜させながら存在していることが確認できた.そこで,機能性肥料として利用するために同様の噴霧乾燥法により水酸アパタイト/硝酸カリウム系組成傾斜粒子を作製した.この粒子が徐放性を有するかどうか,純水中に粒子を浸漬させ徐放特性を検討したところ,短時間での硝酸(NO_3-)イオンの増大が見られた.これは,硝酸カリウムを保護すべき水酸アパタイト層の厚みが薄く,水中で組成傾斜粒子が崩壊したことが原因であると考えられる.このため,徐放特性を持つ機能性肥料を創製するには,外壁(水酸アパタイト層)の増大が必要であることが明らかとなった.
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