本研究は合金組織における転位密度、配列状態の定量化を目指すX線回折系の構築と試料系に最適化した測定系の開発とその応用を目的とする。平成22年度までに、実験室系のX線回折測定システムを開発し、いくつかの実用合金への適用を試みた。平成23年度は、開発した装置を用い実用合金へのさらなる展開を目指し、積層不整を伴う金属組織、および熱処理に伴う不均一な部分回復・再結晶を伴う金属組織への応用を進めた。平成23年度に実施した具体的な研究内容を以下に記す。 1)双晶誘起塑性(TWIP)鋼の積層欠陥エネルギーと変形組織の相関解析: TWIP鋼はMn、C、Alなどの合金元素により積層欠陥エネルギーは敏感に変化し、それに応じた双晶誘起塑性が生じる。この変形様式の特徴を探るため、転位密度、転位配列状態、積層欠陥の出現頻度をX線回折ラインプロファイルから解析した。この研究から、転位密度、配列状態が積層欠陥エネルギーとの相関は弱いことが明らかになった。一方、結晶子微細化は積層欠陥の出現頻度と一定の関係を持つが、その関係は積層欠陥エネルギーと相関を持たないことが明らかになった。また、強加工組織における集合組織成分ごとの転位密度の分布解析を行った。この解析のためにマイクロビームX線回折装置と二次元検出器による測定系を構築し、集合組織成分ごとの転位密度の分布の解析に成功した。 2)析出強化型銅合金の時効処理に伴う転位再配列解析: 銅は微量の添加元素により析出物を形成し、高強度・高導電性が実現される。その析出過程には合金元素-転位の相互作用が強く関わり、特に高温の時効プロセスでは転位の回復現象が合金元素と強い相関を持ちうる。本研究では、時効に伴う個々の合金元素の局所構造変化をXAFSにて追跡し、同時にX線回折ラインプロファイルを用い転位の挙動を解析した。時効に伴う転位再配列は溶質元素種ごとに異なる影響があり、その結果、析出物の成長速度に影響をもたらすことを明らかにした。
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