本課題では、製鉄プロセスにおける化石燃料使用量削減のために、カーボンニュートラルであり日本国内に潜在的地上資源として多く保有されているバイオマスを製鉄利用する挑戦的技術と、炭材の評価・制御技術を組み合わせて、鉄の浸炭・溶融反応の高速化・高効率化をすることを目的としており、本年度は下記項目について検討を行った。 【1】バイオマス炭材の実験前処理及び評価:バイオマスを日本国内のみならず欧州からも手配し、日本産の備長炭、竹炭と欧州産のオーク炭とオリーブ炭、計4種類を準備した。用意された各炭材は、灰分の影響を調査することを目的として、酸による脱灰処理を行ったものと、処理を行わないもの各2種類を作製した。熱処理による炭素結晶性変化の影響を調査することを目的として、脱灰処理後の日本産備長炭を1000~2000℃で熱処理した実験試料も準備した。上述の各炭材に関してラマン分光分析による炭素結晶構造の比較評価を行ったところ、備長炭の熱処理温度によって生じた構造の差異は大きく明瞭であったのに対し、各炭材間の構造の違いは無視できる程小さいものであった。 【2】溶融鉄への炭素溶解反応に炭素結晶性が及ぼす影響:上述のように結晶性を変化させた棒状の備長炭を、高周波誘導加熱炉を用いて加熱・撹搾した鉄浴に浸漬させ、炭素溶解速度を測定した。その結果、高温で熱処理され炭素結晶性が良好な備長炭ほど、溶鉄への炭素溶解速度は遅くなる結果を示し、固体鉄に対する浸炭速度の測定結果と同様の傾向を示すことが確認された。さらに本結果から、炭材に含まれる微量な灰分が、炭素結晶構造と同等かそれ以上の影響を浸炭反応に及ぼす可能性が示唆された。
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