本年度では粒子径と凝集状態を精密に制御したマグネタイトナノ粒子の低環境負荷合成プロセスの構築のための基礎的検討として、出発原料にpHが異なるゲーサイト懸濁液を用い、種々の条件下(雰囲気ガス、ミリング処理時間、容器回転速度、等)でこれをミリング処理する実験を行った。得られた試料の粒子径と結晶性を電子顕微鏡とX線回折装置でそれぞれ評価するとともに、液相の組成とpHの変化をICP発光分光分析装置とpH計で測定した。また、ミリング容器にガスを直接シリンジで採取できる構造を設け、合成反応中に生成するガスの組成をガスクロマトグラフにより分析した。得られた結果に基づいて、以下の反応メカニズムが明らかとなった。すなわち、容器内の気相に酸素が含まれる場合、出発原料である非晶質ゲーサイト懸濁液のミリング処理において、気液相の界面積が増加するために気相の酸素が液相へ溶解し、その溶存酸素濃度が上昇する。そのため、懸濁液は強い酸化雰囲気となるためにゲーサイトからフェロキシハイトへの結晶構造の転位が起きる。それとともに、媒体ボールおよび容器に用いたステンレス鋼表面において、局所的に高い機械的エネルギーが加えられることでこれらの表面は高い活性化状態となり、ステンレス鋼に含まれる鉄の一部がイオン化するとともに、電子が放出され、水酸化物イオンが生成する。生成した鉄イオンと水酸化物イオンの反応によって水酸化鉄が生成するが、容器内は強い酸化雰囲気であるためにフェロキシハイトが生成する。気相の酸素が消費されて低酸素状態となった後は、フェロキシハイトからマグネタイトへの変換(還元)反応が支配的となる。以上より、本系におけるメカノケミカル反応のメカニズムを解明することができ、これによりマグネタイトナノ粒子の粒子径と凝集状態の精密な制御への指針が得られた。
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