本年度では主として試料懸濁液に作用する機械的エネルギーの数値解析とマグネタイト生成反応のメカニズムの解明を行った。 試料懸濁液に作用する機械的エネルギーのもととなる媒体ボールの衝突エネルギーを、その挙動の離散要素シミュレーションにより求めた。その結果、湿式条件では、媒体ボールの全衝突エネルギーのうち、容器壁面との衝突エネルギーが大部分を占め、これが反応の推進力、すなわち反応速度を支配することが示唆された。 また、本合成プロセスにおけるマグネタイトナノ粒子生成過程の解析を行うために、出発原料のモデルとして結晶性ゲーサイト懸濁液を調製し、そのミリング処理を行った。得られた生成物はX線回折パターンよりマグネタイトであり、粒子サイズはおよそ15nm程度であった。その反応過程は、ミリング処理の初期段階では機械的エネルギーによってゲーサイトの結晶性が向上するが、それ以降はメカノケミカル還元によるマグネタイトの生成反応が主反応となる。機械的エネルギーが加えられることによってステンレス鋼に含まれる鉄がイオン化し、電子が生成する。生成した電子によって酸化還元電位が最も高いゲーサイトから水酸化第一鉄への還元反応が選択的に起こり、ゲーサイト粒子表面でマグネタイトの結晶核が生成する。その後も繰り返し機械的エネルギーが加えられることによってマグネタイトの生成反応と結晶核の成長が進行し、凝集することによって表面エネルギーがより小さい安定な球形粒子をゲーサイト粒子表面において形成することがわかった。
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