研究概要 |
非食用バイオマスから化学資源を得ることが期待されている中,特にセルロースからグルコースへの変換が注目されている.しかし,セルロースは,1,4-β-グリコキシド結合で繋がったセルロース分子鎖の分子内及び分子間に多くの水素結合を形成することで,結晶性が高く化学的に非常に安定である.本研究では,セルロースの加水分解反応に対する水蒸気の効果を解明し,更にその水蒸気反応おける気体分子の触媒作用を検討することにより,新たなセルロース糖化法の開発を目的とした.反応容器は密閉式オートクレーブを用いた.市販の微結晶性セルロースAvicel粉末と水を,窒素雰囲気下で導入して密閉し,150~230℃に加熱した.気体触媒を用いるときは加熱前に導入した.水蒸気反応法によるセルロースの加水分解を,水熱反応法と比較した.水熱反応において,グルコースの最大収率は220℃時の13C-%であったのに対し,水蒸気反応では200℃時の23C-%と向上した.また,反応基質の検討を行い,結晶性のものほど水熱反応と水蒸気反応で差が大きくなることを見出した.そのことから,水蒸気中では水分子が個々に動くことで,セルロース固体内にアクセスしやすくなったために加水分解が促進したと考えられる.また,最適な反応温度が低くなったためにグルコースの過分解反応が抑制されたことも、グルコース収率の向上に寄与したと考えられる.次に,気体触媒としてさまざまな物質の蒸気を検討したところ,ギ酸分子に触媒効果が確認された.一方で,酢酸やメタノールなどには反応阻害効果が見られ,分子のサイズ及び極性が触媒活性に影響を与えていることが示唆された.また,プロセスを改良してグルコース収率40C-%を得た.この収率は;硫酸法,イオン液体法,酵素法以外の低環境負荷型プロセスの中ではとても高い値である。本研究により,本プロセスは非食用バイオマス資源の利用が期待される将来の持続型社会の実現に大きく貢献する可能性を示した。
|