平成24年度は平成23年度に引き続き、「研究実施計画」【3】に則り、ATP駆動酵素として、社会的に付加価値の高いグルタチオンを合成し、学術的にも知見が豊富なグルタチオン合成酵素を用いることを目標とした。具体的には、工業的にグルタチオンの生産に用いられている酵母のグルタチオン合成酵素の利用を目指した。光駆動で光駆動ATP再生小胞とグルタチオン合成酵素を共役させたバイオプロセスを考えた場合には、グルタチオン合成酵素を精製することは、コスト増につながり、現実的ではない。そこで平成23年度は、菌体内のグルタチオン合成酵素により消費されたATPが、共役させた光駆動ATP再生小胞により再生されるよう、出芽酵母に膜処理を施し、両者の間をATPおよびADPが自由に行き来できる開放系菌体触媒の開発を行った。しかし、本手法においては、グルタチオンの合成反応に必要な基質やATPも細胞外へ放出されるため、これらの添加が必要になるという欠点をもつ。そこで平成24年度は、グルタチオンのみを特異的に細胞外へと排出させる細胞外グルタチオン生産系を開発した。具体的には、酵母のグルタチオン排出トランスポーターを同定するため、ヒトのグルタチオン排出トランスポーターABCG2との相同性から候補遺伝子を絞り込んだ。これらの候補遺伝子の過剰発現株のうち、ADP1の過剰発現株にて細胞外グルタチオン濃度が有意に高まった。本結果より、酵母で初めてADP1をグルタチオン排出トランスポーターとして同定した。さらに、グルタチオン合成系の強化、グルタチオン分解系およびグルタチオン取り込み系の破壊と組合せることにより、ADP1を用いた細胞外グルタチオン生産性を向上させることに成功した。
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