腹腔内の複雑な形状の部位に広範囲にガンが発生する腹膜播種は、有効な治療法が確立されておらず、罹患判明後の余命は数ヶ月程度である。その有効な治療には、複雑な幾何形状の部位にも入り込み抗ガン剤を徐々に放出するシステムの開発が必要であるとの考えから、本研究では、腹腔に注入すると臓器間に浸透した後にゲル化し、その後ゲルの分解に伴い抗ガン剤を徐放することで腹膜に生着したガンを持続的に攻撃する治療法の開発を目指した。平成23年度は以下の前年度に行った検討結果に基づいて、酵素架橋ゲルからの抗ガン剤の徐放化を目指すためのゼラチン誘導体ゲルの物性改良に関する検討を中心に実施した。具体的には、塩酸塩化された抗ガン剤のゲル内への担持性を向上させるために、負電荷を有するカルボキシル基を含むアルギン酸の誘導体とゼラチン誘導体を混合し、ペルオキシダーゼの酵素反応によりゲル化させた。そして、これら2つの物質の配合比を制御することにより、分解酵素(プロテアーゼ・アルギン酸リアーゼ)での分解性を操作可能であることを見出した。しかし、対象としたジェムシタビン塩酸塩の徐放化に関しては、顕著な結果を得ることはできなかった。なお、前年度に新たに見出した体液中に存在する成分をトリガーとして生体に穏和なゲル形成を生じさせる方法に関しては、得られるゲルの強度に問題があったことから、その向上に関する検討を行い、前年比1.5倍のゲル強度の向上を達成した。
|