研究概要 |
本研究の目的は,実験データーの依存度が大きかった従来の設計法に代わる,理論的考察に基づいた数値計算を利用した新しい氷海船舶の船体構造設計法の構築を目指し,1)氷海船舶の砕氷過程を理論的に解明し,数値計算により氷荷重の船体分布および時系列データを推定し,2)氷荷重下でのFEM船体構造解析を実施し複雑な氷荷重による船体構造応が推定できる方法を確立する事である.昨年度までの研究成果により,氷海船舶が板氷中を航行する時の氷荷重の船体分布および時系列データの数値計算が可能になった.本年度は,砕氷プロセスの特徴に応じて別々に計算していた,船体との衝突によって氷板が割れる時に発生する氷荷重を計算するプログラムと,氷板が割れた後の多数の氷片が船体と衝突する時に発生する荷重を計算するプログラムと統合し,氷海船舶が氷板中を航行する時の一連の砕氷現象をシームレスに計算できるシミュレーションに改良した.これにより,数値計算により,複雑な砕氷現象によって発生する氷荷重を,航行条件が複雑に変化しても容易に計算できるようになった.次に,上記の数値計算により得られた船体周りの氷荷重分布を利用しFEM構造応答計算を行った.従来の氷荷重下での構造応答計算は,実験では計測が困難で正確で詳細な氷荷重分布が取得できず平均的な氷荷重分布を用いていたが,本研究により詳細な氷荷重分布から実現象に近い構造応答計算が可能になった.本研究結果から,これまで構造応答計算で採用してきた平均的な氷荷重分布による構造応答を設計指針に用いると,本数値計算により得られた実現象に近い氷荷重分布を用いた構造応答を用いた時よりも危険側の設計を行う可能性がある事がわかった.このように,本研究により開発した一連の計算手法を用いると,船と氷との複雑な砕氷過程によって発生する氷荷重下での構造応答が正確に計算でき,詳細な構造設計が可能となる.
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