本研究では、深海底という海洋環境をモデルに微生物生態学、生化学および電気化学的手法を用いて、微生物による金属腐食の分子的機序を解明する事を最終目的としている。本年度は、金属腐食確認用の金属片の深海底への設置と天然の腐食地帯ともいえる深海底の鉄酸化物皮膜地帯にてサンプルの採取および解析を中心に行った。金属片の設置場所としては、沖縄トラフ、相模湾初島沖、北部および南部マリアナである。鉄酸化皮膜地帯のサンプルのクローン解析によって、それらの微生物叢には海洋性の鉄酸化細菌として近年注目されているMariprofundus属を含む系統群Zetaproteobacteriaまたは硫黄化学種を利用するEpsilonproteobacteriaが優占的に存在することが明らかとなった。Mariprofundus属は、鉄と酸素をエネルギー源として生育する独立栄養細菌であることがわかっている。また、この微生物は、自身が産生する有機物質に鉄酸化物を吸着・保持させ生育するが、この有機物・鉄酸化物の複合体が、非常に特徴的な螺旋状の形態を有しているため、金属の腐食部にこのような螺旋状の構造物が見られた場合には、ほぼこの微生物によって引き起こされた腐食であると考えられる。Epsilonproteobacteriaは、硫黄化学種を利用して生育し、その過程で硫化水素を発生させるため、このような微生物が多く存在する場所では硫化水素による間接的な微生物腐食が行われることが予想された。このような直接的あるいは間接的な腐食を引き起こす微生物の詳細な生態を解明するために、これらの菌の単離・培養作業が現在進行中である。
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