研究課題
大強度陽子加速器施設J-PARCに建設された工学材料回折装置「匠」は中性子回折を用いた応力ひずみ解析を目的とした装置である。従来の中性子によるひずみ測定の対象は主として金属材料であったが、本研究では、岩石試料への展開を目指し、岩石中の残留ひずみ測定と一軸圧縮下にある岩石のその場ひずみ測定を行った。まず、関東三波川帯より採取した結晶片岩中の石英脈中の残留ひずみを測定した。匠での中性子回折実験を行うための治具を作製し、種々の測定条件(測定時間、波長分解能など)を検討して測定を行った。その結果、微小なゲージボリューム(2×2×2mm)でも試験片内部からのひずみ解析可能な回折パターンが得られた。中性子回折ピーク位置から残留ひずみ量を算出し、試験片の方向に関してひずみ量の異方性が見られる結果となった。また、一軸圧縮その場測定では種々の岩石コア試料に80MPaまでの圧縮応力を負荷し、ひずみゲージと中性子回折法からそれぞれひずみ量を求めた。ひずみゲージから求まる試験片全体のひずみと中性子回折パターンから求まるひずみ量に差が見られた。この差は岩石の空隙率に起因していると考えられる。これらのことから、中性子回折を用いた岩石中のひずみ解析が可能になったと言え、従来の手法では測定が困難な岩石試料内部のひずみの測定が非破壊で可能になったと言える。岩石のひずみ測定に中性子回折を用いることにより、ひずみゲージを用いては測定できない岩石中の応力ひずみ状態を測定することが可能になれば、岩石が形成された時の地下応力状態の解明や、地下環境空間の工学的利用に役立つ情報の取得、岩石の破壊メカニズムの解明などが期待される。
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Review of Scientific Instruments
巻: 81 ページ: 043910-01-043910-05