研究概要 |
研究初年度に当たる当該年度は,まず島根大学既設の装置の改良を行い,ヘリウムおよび重水素の2重イオンビーム同時照射下での光反射率その場測定が可能な装置系,および,照射試料から脱離するヘリウム・重水素の分離測定が可能な高分解能質量分析計を有した昇温脱離ガス分析装置を構築した.本装置により,タングステン中のヘリウム損傷が重水素保持に与える影響を評価するために,重水素およびヘリウムイオンによる一連の逐次照射実験を行い,ヘリウムイオン予照射や追照射が,重水素保持・放出特性に著しく影響を及ぼすことを明らかにした. ヘリウムイオン予照射後の重水素イオン照射においては,ヘリウムの低予照射量(<10^<22>He^+/m^2)では重水素保持量が増加し,高予照射量(~10^<23>He^+/m^2)では重水素放出がほとんど検出されずに重水素保持量は大幅に減少した.透過型電子顕微鏡によるヘリウム照射試料の断面微細組織観察では,高密度のヘリウムバブルがイオンの飛程を遥かに超えた領域まで形成している事が確認された.バブルの密度およびサイズ評価から,比較的低い照射量ではこれらの欠陥が重水素の強いトラッピングサイトとして機能し,高照射量では隣接したバブル同士が合体し,結合したバブルが表面に到達することで重水素の脱離パスとして機能したと考えられた.この結果は,プラズマ対向材料中の水素リテンション評価において,その微視的な損傷組織を精度よく把握することの重要性を示している. 本研究では,照射試料の光学特性についても,反射率測定,電子顕微鏡組織観察,分光エリプソメトリー法などによって調べており,試料表面や表面直下の照射損傷の増加によって光学特性の劣化が進行することが分かってきた.この光反射率の変化と,損傷組織やガスリテンション特性との相関を調べることで,対向壁面の簡便な診断手法として提案する事が期待される.
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