燃焼プラズマを定常的に取り扱う核融合炉においては,時々刻々と変化していくプラズマ対向材料の表面特性を実時間で正確に把握しておくことが,プラズマ制御と炉の安全性維持に極めて重要である.本研究では,核融合炉環境を模擬した複合的な照射下での材料のガス保持・放出特性の変化や原子レベルでの損傷組織発達過程を評価する.併せて,これらの特性変化と炉内でも容易に計測可能な表面光反射率や電気抵抗率の変化等との相関を調べ,プラズマ対向材料の劣化程度の簡便な診断法として提案することを目的とした.平成24年度は,3年間の研究期間の最終年度に当たり,これまでに構築した2重イオン同時照射下光反射率測定装置を用いた実験を継続するとともに,大型プラズマ閉じ込め装置LHDの実機プラズマに曝した試料の分析を系統的に行い,表面光反射率を用いた材料の診断手法の適応可能性について検討を行った.主要な結果は以下の通りである. (1)結晶方位の異なる単結晶もモリブデン試料へのヘリウムイオン照射を行い,表面損傷の程度,光反射率の変化,および試料内のヘリウム滞留挙動に顕著な結晶方位依存性が認められた.光反射率が表面形態だけでなく表面直下の損傷組織にも強く依存する事,また,光反射率劣化の抑制に結晶方位の制御が有効であることが示唆された. (2)核融合炉装置で問題となる事が予想される不純物堆積環境下での試料の光学特性変化を測定した.LHDの実機プラズマに曝した試料では,光反射スペクトルに不純物堆積層厚さに応じた特徴的な振る舞いが観察され,反射スペクトル測定が,損耗・堆積の区別や,堆積層厚さの見積りに有効な手段となりうると考えられた. 今後は実際の核融合炉環境への適応を念頭に,核融合プラズマの運転に貢献できる情報を高精度に得るために,診断手法の最適化を目指した研究が求められる.
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