トリチウム水による金属材料腐食挙動への影響の解明のため、本年度は特にSUS304ステンレス鋼に及ぼすトリチウム水の影響の解明を試みた。実験としては、トリチウム濃度だけでなく、放射線により液相に大きな影響を及ぼす溶存酸素濃度やpHをパラメータとし、電気化学的手法であるアノード分極測定を行うことにより、各条件下における不動態皮膜形成挙動や不動態皮膜の状態へのトリチウムの影響や、ターフェル外挿法を用いて各条件下における材料の腐食速度を算出し、腐食速度への影響を調べた。 硫酸酸性条件下におけるアノード分極測定の結果から、本来溶存酸素存在下では不動態皮膜を除去したSUS304ステンレス鋼は電解質中で不動態皮膜に覆われ、防食されるのに対し、トリチウムが電解質中に存在することで不動態皮膜が形成されにくくなる現象が見出された。このことから、当該年度の大きな成果の一つである、トリチウムによる自己不動態化阻害効果の存在が明らかとなった。また、溶存酸素濃度が高ければ、実験を行ったどのトリチウム濃度においても自己不動態化は観測されるが、トリチウム濃度が高ければ高いほど、より高濃度の溶存酸素が必要とされること、そしてトリチウム濃度と自己不動態化に必要な溶存酸素濃度との間に相関性が示唆されたことから、どれだけ低濃度であってもトリチウムの影響は存在しうること、また、TBq/cc程度のトリチウム濃度では、大気と平衡状態にある電解質中でも自己不動態化が阻害されることが示唆された。 ターフェル外挿法を用いて各種条件下の腐食速度を算出した結果、上記の自己不動態化阻害効果により大きく腐食速度が増加すること、自己不動態化阻害効果以外に溶存酸素濃度とトリチウム濃度に依存した腐食促進効果が存在することが明らかとなった。
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