トリチウム水による金属材料腐食挙動への影響の解明のため、本年度は特にSUS304ステンレス鋼に及ぼすトリチウム水の影響の解明を試みた。平成22年度においてトリチウムによる自己不動態化抑制効果が硫酸酸性溶液中にて発見されたことから、平成23年度においては、トリチウム濃度、溶存酸素濃度に加え、pHをパラメータとして実験を行った。また、腐食促進効果が最も大きかった硫酸酸性領域における自己不動態化抑制効果を解明するために、硫酸酸性領域において溶存酸素濃度とトリチウム濃度をパラメータとし、各実験条件における開放電位の変化を測定することによりSUS304ステンレス鋼の自己不動態化挙動とそのトリチウムによる影響を調べた。 実験(1)として、トリチウム濃度、溶存酸素濃度、pHをパラメータとし、電気化学的手法であるアノード分極測定を行うことにより、各条件下における不動態皮膜形成挙動や不動態皮膜の状態へのトリチウムの影響や、ターフェル外挿法を用いて各条件下における材料の腐食速度を算出し、腐食速度への影響を調べた。実験(2)として、硫酸酸性条件下で溶存酸素濃度とトリチウム濃度をパラメータとし、各条件下における開放電位の時間変化を測定した。 実験(1)の結果として、塩基性領域においてはトリチウムによる有意な影響は確認できなかったが、中性領域においては自己不動態化阻害効果ほどの腐食促進は見られないものの、不動態が形成されている状態であってもトリチウムによる腐食促進効果が存在することが明らかとなった。 実験(2)の結果から、SUS304ステンレス鋼の不動態化は2段階から構成されており、この両段階にトリチウムは影響を及ぼしていることが明らかとなり、このことから、不動態被膜を構成する3価クロムが放射線分解生成物によりさらに酸化され、溶出することにより不動態被膜の形成が阻害されている可能性が考えられた。
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