研究概要 |
本研究の目的は、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の協力の下、高照射量中性子照射した照射試験片、及び、熱時効試験片の磁気計測を行うことにより、高中性子照射量領域における原子炉圧力容器鋼の照射脆化と磁性の相関データベースの拡充、磁性変化のメカニズム解明を行うことである。平成24年度は、照射脆化のキー元素(Cu,Mn,Ni)の含有量を系統的に変えた原子炉圧力容器鋼(14種)、熱処理条件が異なり初期転位密度が低い圧力容器鋼(3種)、及び、鉄基三元系モデル合金(2種)について熱時効実験を継続して実施し、高中性子照射下における熱脆化の磁気特性への影響を調べた。 原子炉圧力容器鋼の運転温度290℃、及び、熱脆化促進温度500℃の二つの温度で約8000時間までの長時間熱時効実験を実施した。機械特性は両温度とも熱時効に伴う変化は誤差の範囲内であったが、磁気特性の保磁力は290℃の熱時効により僅かな減少を示した。一方、温度500℃では、原子炉圧力容器鋼の保磁力は僅かな増加を示すが、モデル合金の保磁力は熱時効直後から顕著な減少を示した。この磁気特性変化は、中性子照射に伴う銅析出物形成および回復の促進効果の複合効果により解釈でき、特にその効果の優位性は材料の初期組織(原子炉圧力容器鋼:フェライトとベイナイトの混合組織、モデル合金:フェライト組織)に強く依存することを見出した。更に、過去の中性子照射材の磁気測定結果との比較から、マトリクスの格子歪み緩和も磁気特性変化のメカニズムの一つであることが明らかになった。
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