使用済燃料の再処理技術として現在PUREXによる湿式再処理法とともに高温溶融塩に代表される乾式再処理法が検討されている。本研究では、高温溶融塩に代わる媒体「無機イオン液体」を用いてまず(1)ウランイオンの酸化還元反応の素過程について調査し、ウラニルイオンがどのような化学反応を経て酸化ウランとして沈澱するかを解明する。その後、(2)使用済燃料の再処理過程を模擬した溶液条件で、電解還元によってウランを高効率で分離回収する電解システムを構築する。昨年度から本年度にかけておもに(1)について検討した。 昨年度合成した各種塩化ウラン化合物(UO_2Cl_2、UCl_4)を用いて今年度は、それらを無機イオン液体あるいは水溶液中に溶存させ、溶存しているウラン錯体の構造解析を行った。分析手法として紫外可視吸光分光法、ラマン分光法、X線吸収微細構造を用いた解析手法である。まず、紫外可視吸光分光法を用いてウラン(IV)錯体の配位環境が著しく変化する溶液組成を調査した。7Mから4M塩化カルシウム溶液中のウランU^<4+>に配位した水分子あるいは塩化物イオンなどのアニオンの数が変化すると観察される吸収ピークエネルギーがシフトした。また、ウランUO_2^<2+>については、U=0伸縮振動に起因するラマンピークが著しくシフトし、赤道面に配位する塩化物イオンの数が変化したことによることが示唆された。上述の情報をもとにX線吸収微細構造(XAFS)を用いて、さらに詳細な解析を進めた結果、7M塩化カルシウム中においてウランU^<4+>に、約3つの塩化物イオンと約5つの水分子が配位していることが分かった。また、ウランUO_2^<2+>については、赤道面に約2つの塩化物イオンと約2つの水分子が配位していることが明らかになった。なお、0.1M程度の希薄な電解質中では、ウランU^<4+>に約9つの水分子が配位し、ウランUO_2^<2+>の赤道面に5つの水分子が配位する。上記実験を実施することによって、無機イオン液体中でのウランの配位環境は希薄な電解質水溶液中のそれと全く異なることを明らかにした。 上記の配位環境に関する知見を得たうえで、無機イオン液体中に溶存するウランUO_2^<2+>の酸化還元挙動を調査した。サイクリックボルタンメトリー、回転電極を用いたリニアスイープボルタンメトリー及びバルク電解によって、UO22+の酸化反応メカニズムが電位に依存して2つ存在することが分かった。すなわち-0.1Vでは、UO_2^<2+>→UO_^+→UO_2^<2+>+UO_2(1電子還元+不均化反応反応)、-0.4VではUO_2^<2+>→UO_2^+→UO_2(2電子還元反応)が生じていることを明らかにした。
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