本年度には、まず、固体酸化物の添加効果の発現において重要なラジカルを調べるために、ラジカル捕捉剤を用いた定常照射実験を行った。放射線の照射により還元反応が進行する二クロム酸カリウム水溶液に対してシリカゲルを添加し、ガンマ線照射を行い、照射による二クロム酸イオンの還元量とシリカゲルの添加量との関係を調べた。その結果、シリカゲルの共存により二クロム酸イオンの還元反応が促進されること、加えてOHラジカルの捕捉剤を加えることによって、シリカゲルの添加効果が阻害されることを明らかにした。OHラジカル捕捉剤によるシリカゲル添加効果の阻害は顕著であり、シリカゲル共存による二クロム酸イオンの還元量の増加は50%以上阻害された。この結果から、シリカゲルによる還元反応の促進は、酸化性のOHラジカルによるクロムの再酸化反応の抑制による部分が大きいと推定された。従って、固体酸化物の添加効果において、OHラジカルの反応が重要であると考えられる。 そこで、シリカ共存下でのOHラジカルの反応を調べるため、ナノサイズのシリカコロイド溶液を試料として、短パルス電子線照射・時間分解吸光法によりOHラジカルの反応を時間分解で測定した。その結果、シリカコロイド共存下では、OHラジカルと水溶液中の溶存種との反応は抑制され、シリカコロイドがOHラジカルに対して反応性を持つことが分かった。シリカコロイドとOHラジカルとの反応はマイクロ秒の時間スケールで進行することが観測された。この結果から、水とシリカとの界面では、OHラジカルが捕捉されるため、OHラジカルによる酸化反応が抑制されると推察される。従って、定常照射実験で観測されたシリカゲル添加によるクロムの再酸化反応の抑制は、シリカゲル表面でOHラジカルが捕捉されるためと考えられる。
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