本研究では、イオンビーム誘起の高密度電子励起によって金属酸化物、特に二酸化セリウム(CeO_2)に格子欠陥を形成し、それを担体として白金(Pt)ナノ微粒子の析出を制御することで、高い活性と耐久性を兼ね備えた固体高分子形燃料電池用の酸素還元触媒を創製する。このうち今年度は、ナノスケールの厚さで薄膜状CeO_2を作製するとともに、CeO_2上へのPt微粒子の作製条件や照射ビームの核種、エネルギーやフルエンスを検討した。具体的には、以下のとおりである。 まず、CeO_2のターゲットを用いてスパッタ法により、グラッシーカーボン基板上にCeO_2薄膜を堆積した。主にスパッタ出力、雰囲気、基板温度などの条件を制御しつつ成膜時間を1~3分の間で変化させることで、膜厚を3~10nmに制限した。得られたCeO_2薄膜の上に堆積するPt微粒子については、量子サイズ効果と高い触媒活性の発現という観点から、Ptターゲットのアルゴンイオンビームスパッタにより粒径を4nm以下に制御することが最適であるとの結論に至った。 次に、CeO_2のイオンビーム照射挙動に関する既往研究を基に、酸素空孔が効率的に形成される照射条件を検討したところ、サイクロトロン加速器からの450MeV ^<129>Xe^<23+>はその極めて高い電子励起状態により格子系へのエネルギー緩和を誘起できることがわかった。空孔形成領域に相当する潜在飛跡の大きさを見積もることで、重畳照射には10^<12>ions/cm^2以上のフルエンスが必要であることも明らかとなった。 今後は、得られたPt微粒子/CeO_2薄膜試料のイオン照射効果に対して、特に触媒性能を示唆する電気化学特性(特に還元の開始電位、反応過電圧や有効活性面積、電荷移動速度など)に着目しながら評価を進めたい。
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