本研究では、イオンビーム誘起の高密度電子励起によって金属酸化物、特に二酸化セリウム(CeO_2)に格子欠陥を形成し、それを担体として白金(Pt)ナノ微粒子の析出を制御することで、高い活性と耐久性を兼ね備えた固体高分子形燃料電池用の酸素還元触媒を創製した。最終年度である今年度は、Pt微粒子/CeO_2薄膜試料を作製し、そのイオン照射効果に対して、特に触媒性能を示唆する電気化学特性に着目しながら評価を進めた。具体的には、以下のとおりである。 まず、結晶性の高い薄膜を得るため新たにレーザーアブレーション(PLD)法を導入し、CeO_2ターゲットを用いてNbドープチタン酸ストロンチウム(100)基板上に厚さ数百nmのCeO_2薄膜を堆積した。その後、空気中、1000℃で加熱し、基板の配向性を利用してCeO_2の結晶性をさらに高めた。この薄膜の上に堆積するPt微粒子については、量子サイズ効果と高い触媒活性の発現という観点から、Ptターゲットのアルゴンイオンビームスパッタにより粒径を4nm以下に制御した。次に、サイクロトロン加速器からの450MeV^<129>Xeビームをフルエンス3×10^<12>ions/cm^2まで室温で重畳照射し、その電子励起状態により格子系へのエネルギー緩和を誘起し酸素空孔を効率的に形成した。 こうして得られた照射試料を作用極、Pt線を対極として、酸性下(過塩素酸水溶液中)でのボルタンメトリー測定を行い、還元の開始電位、有効活性面積(水素吸脱着に伴う信号を利用)を測定した。加えて、回転電極法を利用したLevich式による詳細な解析も行い、電荷移動速度などを含む真の酸素還元活性を評価し、これらの結果により燃料電池用触媒への応用性探索、研究全体の総括を行った。
|