研究概要 |
本研究テーマでは,ウラニルイオン(UO_2^<2+>)をホスト分子に組み込んだ多孔性金属有機骨格(MOF)を構築することを目的とし,その前段階における予備実験として機能性ウラニル錯体の合成に取り組んだ.研究実施計画にも記載されているように,本年度はMOFの合成自体というよりもリンカーとなりうる配位子の検討・あるいは有機配位子の合成に力点をおいた. 今年度はチオシアン酸イオンを有効なリンカーとして活用できるかどうかを検討した.この配位子はウラニルイオンのような「かたい」金属に対しては窒素原子をドナーとして配位することが知られているが,貴金属のような「やわらかい」金属に対しては硫黄原子をドナーとして配位結合するため両座配位子とよばれ,リンカーとして要求される結合形態をとりうると考えた. 具体的には,ウラニル-ペンタキスイソチオシアナト錯体をMOFのようにカチオンをイミダゾリウム誘導体としたイオン対からなる液状錯体にすることに成功した.この物質はアクチノイド化合物には珍しいサーモクロミック特性を有することが発見された.カチオンのアルキル鎖長を短くすることでこの錯体は室温で固体となったため,単結晶X線で構造解析が可能となった.その結果ウラニル赤道面の構造に異方性があることが分かった.また,固液相転移に伴なって発色も変化することが分かった. 結晶構造解析からは「配位空間」はMOFのそれと比べてゲスト分子を取り込むほど大きくなく,このアプローチは本来目的である「固体の」MOFの合成からは多少逸脱するように見えるが,リンカー配位子を無機イオンにすることで得られたセレンディピティとも言える.その結果がアクチノイド物質の新たな機能の発見につながったことから,一定の成果を収めつつあると言える.
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