平成22年度は実験装置を整備した。多段階振動励起は可視光を使って誘導ラマン遷移を繰り返すことで実現させる。誘導ラマン遷移はポンプ光とストークス光と呼ばれる波長の異なるふたつの光を使って、ポンプ・ストークス間のエネルギー差を分子振動に共鳴させることで起こす。分子の振動準位間隔は振動ポテンシャルの非調和性によって、高振動準位になるにつれて狭くなる。この振動準位間隔の変化に対応しながら誘導ラマン遷移を繰り返すために、ポンプ・ストークスの間の瞬時周波数差が時間とともに小さくなるようにする。これを実現するために、ポンプ光とストークス光、それぞれのビームラインにプリズム対を使ったチャープ制御系を設置し、独立に線形チャープをかけられるようにした。多段階振動励起が起こったかどうかを確認するために、プローブ光を照射してコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)光を発生させる。多段階振動励起が起こるとプローブ光を時間スキャンすることで得られる時間分解振動CARS信号にビートパターンが現れる。これを解析することで振動多段階励起の効率を調べる。はじめ、光源にはフェムト秒レーザーパルス発振器を用いていたが、時間分解振動CARS信号を得るには残念ながらパルスエネルギーが足りないという結果になった。そこで、光源を再生増幅器とオプティカルパラメトリック増幅器の組み合わせに変更した。これによって、時間分解振動CARS信号を得るには十分なパルスエネルギーが得られるようになった。
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