エゾサンショウウオ幼生(捕食者)、エゾアカガエルのオタマジャクシ(被食者種1)、ミズムシ(被食者種2)、落葉(オタマジャクシ及びミズムシの餌)からなる生態系をモデルとして、個体の形質変化の生態学的・進化学的意義を探索した。この系では、サンショウウオはオタマジャクシがいるときに捕食に有効な大顎型の形態に変化すること、逆に、オタマジャクシはサンショウウオがいるときに頭部を膨らませた防御形態を発現することが知られている。 1.形態変化の生態学的意義:相互作用の改変と生態系機能へのカスケード効果 オタマジャクシの防御形態を操作した水槽実験により、「オタマジャクシが防御することで、サンショウウオが栄養価の低いミズムシを高頻度で食うようになり、生き残ったオタマジャクシが落葉の分解を促進することや、サンショウウオの変態が遅れること」を明らかにした。この研究により、被食者の防御適応が、捕食者の生活史や群集を構成する種の個体数に加え、生態系機能にまで影響することが明確に示された。 2.形態変化の進化学的意義 個体の形質変化が相互作用を変えるのであれば、それは群集構成種の形質選択にも作用すると考えられる。この仮説を検討するために、ミズムシの体サイズ分布に対するサンショウウオの選択圧がオタマジャクシの存在によって異なるのか、実験的に調べた。その結果、「オタマジャクシがいない場合に比べ、オタマジャクシがいる場合には、ミズムシ個体群の体サイズの平均値が、初めのうち小さいが、時間経過とともに急激に大きくなる」ことが分かった。両生類2種の形態の時系列解析から、サンショウウオとオタマジャクシの対抗的な形態変化に伴う相互作用構造の改変が、ミズムシの平均体サイズの時間動態に関与していることが示唆された。以上の成果は、表現型可塑性が群集構成種の選択強度に作用し、生物の形質進化の原動力として働く可能性を指摘するものである。
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