前年度までにおこなったハコネウツギ(花が咲き終える前に色を変える)とタニウツギ(色を変えない)についての調査結果を論文にまとめ、一流国際誌に発表した。次に、この論文で提唱した仮説「送粉動物は分類群によって空間利用行動が異なる」を証明するため、無差別標識にもとづく餌場固執性の測定法を開発した。開発にあたっては、研究代表者(大橋)が原案を提出し、これをもとに徳永幸彦博士(筑波大学)が状態-空間モデルにもとづくベイズ推定のモデルを作成した。このモデルにより、従来は個体識別が不可欠であるため幅広い分類群の昆虫には適用がむずかしかった餌場固執性の測定が、無差別標識という汎用的な手法で行えるようになった。仮想データおよびマルハナバチの実測データは、このモデルが高い信頼度で餌場固執性を推定できることを示している。以上の成果を、国際誌への発表に向けて現在論文にまとめているところである。 さらに、この推定法を用いて大学院生鈴木美季の協力のもと、ニシキウツギ(花が咲き終える前に色を変える)とタニウツギ(色を変えない)の自生地において、マルハナバチ類・小型ハナバチ類・ハエアブ類の餌場固執性の定量的比較をおこなった。その結果、固執性はニシキウツギを訪れるマルハナバチ類で最も高く、他の分類群の送粉動物、あるいはタニウツギを訪れるマルハナバチ類ではより低い傾向が見いだされた。これは、古い花の色を変えて維持するやり方は、他の花種が多い環境で、送受粉効率の高いマルハナバチの株への再訪問を促す「囲いこみ戦略」であるとの仮説を支持する。また、色を変えず古い花を維持するやり方は、他の花種との競争が少ない春先などに、通りすがりのマルハナバチ個体を機会的に利用する「だまし戦略」であるとの考えを支持する。以上の成果をまとめ、国際誌への投稿に向けて原稿を準備中である。
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