博物館等に収蔵されている生物標本は、言わば、その個体が生きていた時代の生物学的情報が保存されたタイムカプセルである。そこで本研究では、モデル植物シロイヌナズナに近縁な野生植物であるイブキハタザオとハクサンハタザオを対象に、伊吹山と藤原岳で採取された標本個体を対象に、適応遺伝子の単離とその時空間動態の解析を行った。 次世代シーケンサーは従来型シーケンサーの数万倍以上の配列解読能力を持っている。そこで次世代シーケンサーIllumina GA IIxを用いて、イブキハタザオとハクサンハタザオの局所適応に関与する適応遺伝子の単離を試みた。それぞれの系統からDNAを抽出し、2ランを行い、約700億塩基対の解読を行なった。その後、de novoアッセンブリ解析とシロイヌナズナゲノムへのマッピング解析を行い、いくつかの遺伝子の塩基配列やコピー数に違いが見られることが明らかとなった。 さらに北海道大学・東北大学・国立科学博物館・首都大学東京・京都大学の植物標本庫に収蔵されている、伊吹山と藤原岳のイブキハタザオとハクサンハタザオの標本個体の収集を行った。これらの個体を対象に、適応遺伝子座と中立遺伝子座あわせて20遺伝子座の時空間動態の解析を行なった。収集した標本個体からDNAを抽出し、データベースの情報や解読したゲノム情報を元にPCR用プライマーを設計し、DNA塩基配列の決定を行った。標本の採取された年代間で対立遺伝子頻度を比較した結果、多くの遺伝子においてその頻度は一定ではなく変動していることが明らかとなった。
|