研究課題
密接に関わり合う生物同士の関係には、しばしば目を見張るほどの著しい多様化を遂げたものがある。イチジクとイチジクコバチ、あるいはユッカとユッカガの間の絶対送粉共生はその最たる例だが、こうした緊密な種間相互作用がどのように両者の多様化を促すのかを明らかにすることは、生物多様性の成り立ちを理解する上で重要な課題の一つである。本研究は、コミカンソウ科植物とハナホソガ属蛾類の間で近年発見された絶対送粉共生をモデルとして、両者の共生関係の全貌を世界規模で明らかにしつつ、共生系の成立がどれほど両者の多様化を促進したのかを、分子系統解析を用いて解明することを目的とする。コミカンソウ科における絶対送粉共生は、これまで旧熱帯の各地で詳細に研究されてきたが、新大陸における研究は全く手つかずのままだった。平成22年度は、新大陸におけるコミカンソウ科植物の分布の中心であるカリブ海諸島(ジャマイカ)で野外調査を行い、新大陸の一部の種においても絶対送粉共生が見られることを明らかにした。また分子系統解析の結果から、新大陸における絶対送粉共生が旧熱帯のものとは異なる起源を持つことが分かり、さらに新大陸のコミカンソウ科のなかでもハナホソガと共生関係にある種群は、そうでない種群より多様であるという大まかな傾向が見られ、旧熱帯で得られたこれまでの知見と符合する結果を得た。一方、コミカンソウ科植物とハナホソガ属の種特異性に関しても新たな発見があった。コミカンソウ科植物の共生者であるハナホソガ属の種特異性は、寄生者であり、かつハナホソガ属に近縁なマダラソホガ属、ハマキホソガ属のそれよりも顕著に高いことが分かり、共生の進化が種特異性、種多様性のいずれをも高めることが分かった。これらの一連の結果は、絶対送粉共生が植物と送粉者の多様化を加速させるという考えを強く支持するものである。
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