密接に関わり合う生物同士の関係には、しばしば目を見張るほどの著しい多様化を遂げたものがある。イチジクとイチジクコバチ、あるいはユッカとユッカガの間の絶対送粉共生はその例だが、こうした緊密な種間相互作用がどのように両者の多様化を促すのかについてはまだよく分かっていない。本研究は、コミカンソウ科植物とハナホソガ属蛾類の間の絶対送粉共生をモデルとして、両者の共生関係の全貌を世界規模で明らかにしつつ、共生系の成立がどれほど両者の多様化を促進したのかを、分子系統解析を用いて解明することを目的としている。 前年度は、これまで全くの手つかずだった新大陸におけるコミカンソウ科植物の生態を明らかにすべく、カリブ海諸島(ジャマイカ)で野外調査を行い、新大陸の一部の種においても絶対送粉共生が見られることを明らかにした。この成果を受けて今年度の前半は分子系統解析を主に進め、コミカンソウ科の中でハナホソガと共生関係にある種群は、そうでない種群より多様であるという結果をより強固なものとした。 こうした中で、ハナホソガがどのように植物の多様化を促すのかについて、新しい考えが浮上した。コミカンソウ科の中でハナホソガと共生関係にある種群は、そうでない種群より多様であるだけでなく、一つの地域に共存している種数も多い。前者と後者で地理的な分布の広さに大きな違いはないことから、種の多様性の違いは、一地域に共存できる種の数が大きく影響している。そこで今年度は琉球列島、およびマレーシアで調査を行い、送粉様式ごとにどれだけのコミカンソウ科植物が同所的に生育しているのかを明らかにし、また奄美大島において、同所的に生育するコミカンソウ科植物の生殖隔離にハナホソガの種特異性が特に大きく関わっていることを明らかにした。分子系統解析の結果と合わせて、これらの結果を統合した論文を執筆する予定である。
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