植物の樹冠内における窒素の移動がどのように制御されているのかを明らかにするため、窒素の安定同位体を指標として用いた標識試験をおこなった。 日本に広く分布するQuercus属の落葉樹であるコナラの苗木を材料として、当年葉を安定同位体で標識した後、移動パターンを追跡した。この際、植物のフェノロジーが樹冠内の窒素移動に及ぼす影響を明らかにするために、後続の葉の展開が盛んに起こる成長期の前半と、後続の葉の展開が終了した後の成長期の後半に分けて当年葉の標識を行った。また、土壌中の窒素可給性の違いが樹冠内の窒素移動に与える影響を明らかにするために、施肥条件を変化させる試験を合わせて行った。 その結果、成長期の前半と後半では、窒素の移動様式は大きく異なっていた。後続の葉が展開している成長期前半では成長期後半に比べて、後続の葉への窒素の移動が多く検出された。さらに、当年シュート間でも顕著な窒素の移動が検出され、移動する窒素の割合は、前半では高窒素施肥個体と低窒素施肥個体で違いがなかったが、後半では低窒素施肥個体で高窒素施肥よりも大きくなった。このことから、土壌の窒素可給性の樹冠の窒素配分への影響は、成長期間の前半には小さく、後半により大きく出ることが示唆された。このような樹冠内における当年葉からの窒素の移動様式の時期の違いは、植物の窒素利用戦略を知る上で必要不可欠である上、森林の窒素循環を理解するのにも役立つものである。
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