葉への窒素配分は光合成能力を左右する重要な要因である。このため、樹木では樹冠内における窒素配分について盛んに研究がなされてきた。樹冠内での窒素移動は、落葉前の引き戻しと、新葉の展開時における旧葉から新葉への転流が知られてきたが、これまでの研究で当年葉間においても窒素移動が起こることを明らかにした(Ueda et al. 2009)。本研究では、当年葉間の窒素移動に関して、安定同位体を指標とした標識試験により、その様式と制御機構を明らかにすること目的とした。この目的のため、日本に広く分布するQuercus属の落葉樹であるコナラの苗木を材料として、窒素の安定同位体を用いた標識試験を複数回行った。その結果、当年葉間の窒素移動は一方向ではなく、双方向の移動であることや、樹冠内における葉の位置が移動パターンに大きく影響することなどを明らかにした。さらに、土壌中の窒素可給性を変えた試験を併せて行うことで、窒素可給性が樹冠内の窒素移動にどのように影響するのかを調べた。その結果、窒素の可給性が低い低施肥条件で育てられた個体において、可給性が高い高施肥条件で育てられた個体に比べて、当年葉間の窒素移動の重要性が増すことなどを明らかにした。これは、当年葉間の窒素移動が、不足する窒素を効率的に使うために重要であることを示唆している。さらに、平成24年度には、これまでの3年間の実験によって得られたデータを取りまとめ、統計解析を行い、論文として発表した (Ueda 2012)。このような樹冠内における当年葉からの窒素の移動様式の理解と移動様式を制御する土壌窒可給性などの要因の解明は、植物の窒素利用戦略を知る上で必要不可欠である上、森林の窒素循環を理解する上でも役立つものである。
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