研究概要 |
本研究の目的は,種分化に関与する遺伝子が,ゲノム内のどのような場所に存在し,どのような形質と関連しているのかを解明することである.材料は,これまで種分化のしくみが良く調べられてきたイワワキオサムシとマヤサンオサムシを用いる.知見が蓄積している材料に対して,新しい解析手法(ゲノムスキャン)を適用することで,種分化のメカニズムを,新たな視点から,さらに深く理解することを目指すものである. 初年度である2010年度には,(1)交雑帯におけるサンプル採集,(2)サンプルの遺伝解析によるクライン解析,(3)文献情報に基づく分布パターンデータの整備,および(4)分布データに基づく生態ニッチモデリング解析,を行った. クライン解析の結果からは,交尾器形態にかかわる遺伝子座(QTL)の近傍領域が,交雑帯における自然淘汰を受けていることが明らかになった.解析した12マイクロサテライトのうち,交尾器近傍領域では7/8が有意に中立から逸脱したのに対し,そうでない領域では全てが中立的であった(0/4).さらに,中立からの逸脱の多くは方向的な淘汰によるものであり,その方向は常に種間交雑による交尾器破損によって生じるコストを低下させる方向(雄交尾器は細く短く,雌交尾器は長く)であった.このことから,交尾器形態を決める遺伝子は生殖隔離を支配する種分化遺伝子であることが示唆された. 生態ニッチモデリングの結果からは,両種の生息地選好性が分化していることが明らかになった.しかし,交雑帯付近ではさらに複雑な生息地選好性のシフトが見受けられ,これがモザイク状の交雑帯構成に影響している可能性が示された.
|