研究概要 |
二次接触による遺伝的な交流がニッチ進化を促す機構を解明することを目的として、本年度は屋久島をそれぞれ南限および北限とするキイチゴ属Idaeobatus亜属モミジイチゴ(ヤクシマキイチゴ)およびリュウキュウイチゴのゲノムデータベースを構築した。屋久島において行われた植生調査によるニッチモデル(田川ら未発表)および遺伝解析(三島ら未発表)に基づき、モミジイチゴおよびリュウキュウイチゴの純集団から3個体ずつを採集し、自然光下・温度20度の温室で3ヶ月間栽培した。葉から得られたmRNAより、それぞれ3,479、3,781個のSpliced-variantを含む同一遺伝子由来と推定された配列をESTライブラリとして得た。遺伝子浸透を解析する際に考慮すべき集団構造を把握するために、種間で同一の機能推定がされた配列から設計された48遺伝子のプライマーから12機能遺伝子のコーディング領域のプライマーを用い、モミジイチゴ2集団(屋久島、福岡)、リュウキュウイチゴ2集団(屋久島、奄美大島)の計55個体からそれぞれ計>5kbpの配列を決定し、集団構造と集団間の分岐年代を推定した。リュウキュウイチゴとヤクシマキイチゴはおおよそ2%弱程度の分化を示し、生態的には明瞭な分化がみられる一方、系統的には非常に近縁な関係にあることが分かった。またリュウキュウイチゴの屋久島集団は奄美集団と比較的最近分化したことが示された一方、モミジイチゴの屋久島集団と福岡集団間にはリュウキュウイチゴにくらべて高い集団間分化がみられた。さらに交雑帯における開花期、落葉性、トゲの有無などの形質を測定するために、屋久島における2種の交雑帯(2林道)から計7集団70個体の株分けを採集し、DNAを回収するとともに、現在九州大学内人工気象装置内で栽培を開始した。
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