研究概要 |
異所的種分化によって異なる環境に適応した2種が、気候変動によってその分布を変化させるとき、分布域末端の集団は、環境の変化や接触による交雑など進化的ダイナミクスを経験すると考えられる。本研究では、(1) 亜熱帯および温帯にそれぞれ生育するキイチゴ近縁種2種の過去の分布変遷および接触、(2) 接触による遺伝子流動の開始と適応的な浸透交雑について検証した。まず西日本計9集団において12遺伝子に基づいたコアレセンス解析および標本データと気象データに基づいたニッチモデリングを行った。亜熱帯性キイチゴは最終氷期以後に分布を北上させ現在の南限である屋久島に到達した一方、温帯性キイチゴは、分布が隔離されながら、現在の南限である屋久島集団を最終氷期以前から保っていたことが推測された。気候変動によって分布域のダイナミクスが起こり、結果として近縁種の分布が重なり交雑が始まったと考えられる。さらに、屋久島における交雑帯において核12遺伝子、葉緑体1遺伝子の配列解析を行ったところ、亜熱帯性キイチゴが主に種子親となり、交雑帯が形成されていた。戻し交配による浸透交雑が検出された。また、葉緑体DNA配列を用いた近縁14種との系統解析から、対象2種が姉妹種あるいは姉妹種同等に近縁な関係であることが分かった より詳細な解析によって適応的な浸透交雑を検証するために、多個体で多遺伝子の解析のリファレンスとなる全ゲノム解析を開始した。メイトペアによるDe novoゲノムアセンブリ(Allpaths-LG)の結果、現在のところ、scaffoldsのN50が10,000bp程度、トータル148Mbp程度がアセンブルされた(対象種のゲノムサイズは、おおよそ~250Mbp)。
|