異所的種分化によって異なる環境に適応した 2 種が、気候変動によってその分布を変化させるとき、分布域末端の集団は、環境の変化や他種との交雑など進化的なダイナミクスを経験すると考えられる。本研究では、 (1) 亜熱帯および温帯にそれぞれ生育する系統的に非常に近縁なキイチゴ 2 種の過去の分布変遷、 (2) 他種との接触による交雑の開始と適応的な浸透交雑について検証した。まず標本データと気象データに基づいた種の分布域予測、および西日本計 9 集団におけるコアレセンス解析から過去の気候変動に対する分布域変遷を検証した。その結果から、亜熱帯性キイチゴは最終氷期以後に分布を北上させ現在の南限である屋久島に到達した一方、温帯性キイチゴは、分布が隔離されながら、現分布域の南限である屋久島集団を最終氷期以前から保っていたことが推測された。さらに現在の分布が交わる屋久島では2種間の遺伝子流動が検出された。気候変動による分布域変遷が、近縁種の分布域の接触と交雑を促したと考えられる。さらに詳細に屋久島内の集団を解析したところ、標高帯に沿った連続的な交雑帯が形成され浸透交雑が起こっていることが分かった。交雑帯において、幾つかの遺伝子は中立的に予測されるよりも早いスピードで亜熱帯種から温帯種に浸透していることが示唆された。
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