水域生態系の主要な一次生産者である藻類と、それを利用する主要な藻食者である藻食魚において、種のレベルで両者の種特異性や関係性を明らかにし、種間相互作用のネットワークを紐解くことを目的として研究を行った。インド-西太平洋にわたる広い海域のサンゴ礁において、なわばり性スズメダイ類18種について、なわばり内外から藻類を採集し、形態観察と18S遺伝子に基づいてイトグサ類の分類を行った。その結果、沖縄とモーリシャスおよびオーストラリアのいずれでもクロソラスズメダイの藻園に、そこにのみ生育する種特異的なイトグサの一種が見られた。エジプト、ケニヤ、モルディブでは、近縁のそれぞれ別のイトグサ種がその藻園で優占していた。またこれらのイトグサ類の藻園内に占める割合は様々で、クロソラスズメダイとその餌となりかつ藻園で保護されるイトグサとは、互いの依存度が多様で、かつパートナーシフトがありながらも、インド-西太平洋を通して高い種特異性が維持されていることが明らかとなった。 また、沖縄のクロソラスズメダイについて、炭素と窒素の安定同位体比と、脂肪酸組成をマーカーとし、胃内容分析も併せ行い、なわばり内に繁茂するイトグサの藻園へのこのスズメダイの依存度を調べた。筋肉組織の安定同位体比と脂肪酸組成は、餌の値や組成に影響され形成されるため、それらを用いることで胃内容物だけでは知り得ない3ヶ月間程度の蓄積を知ることができる。その結果、このイトグサはスズメダイにとって必須脂肪酸の主要な源になっていること、一方で高い炭素1窒素比を持つイトグサを主食とする窒素不足を補うため、スズメダイは藻園内の底生動物も摂食していること明らかになった。こうして、スズメダイによる藻食への適応のメカニズムと、食藻との種特異的ネットワーク構造が明らかになりつつある。
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