研究概要 |
水域生態系の一次生産者藻類と、それを利用する藻食魚において、種のレベルで両者の種特異性や関係性を明らかにすることを目的とした。2010年にタンガニイカ湖を訪れ、湖固有種のシクリッド科4族計13種について、各種より5個体採集し、うち摂餌なわばりを持つ10種について、なわばり内の藻類群落を3から5つ採集した。また得られた魚体から胃を採取した。これらサンプルからDNAを抽出し、16SrDNA領域においてPCRを行い454GSJuniorを用いて網羅的にシークエンスした。 メタゲノミクス解析の結果、計74,992リードのシークエンスを得た。一サンプルあたり112±65のOTU (非類似度3%) が見つかった。出現した生物の系統は計32門からなり、プロテオバクテリア門が603OTUと約25%を占め優占していた。光合成生物ではシアノバクテリア門が203OTU、 クロロフレクサス門が136OTU、続いて主に珪藻類からなる不等毛植物門が71OTUと多かった。藻園からは光合成生物としては、ネンジュモ目などのシアノバクテリア門がシクリッドの種を超えて優占しており、一方真核藻類では、緑藻のカモジシオグサや珪藻が優占していた。胃内容を見ると、シアノバクテリア門のネンジュモ類と珪藻類が、多くのシクリッドで共通してみられた。一方、藻園内で多くみられた緑藻類のカモジシオグサは、胃内容にはほとんど見られず、特に梳き取り食者にはほとんど利用されていなかった。シクリッド種間や、ギルド間で藻園の藻類組成、胃内容物組成を比較すると、ギルド間よりも同じギルド内の種間で差異が大きかった。このようにDNAの塩基配列レベルで微小な藻類を種レベルで分類することで、同じギルドに属する種間でも、防衛する資源や、その利用が異なることが分かり、これがタンガニイカシクリッドの多種共存を可能とするキーであることが示唆された。
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