本研究は、非季節性熱帯林において植物-植食者群集の構造特性の解明を目指す。平成22年度は、植食性昆虫(または植食者)の寄主植物への特殊化の程度を目・科・属レベルで評価するため、非季節性原生林が残存するマレーシア・ランビルヒルズ国立公園において植食者(甲虫目ハムシ科成虫)の採集と、DNAバーコーディング(規定された遺伝子領域の短い塩基配列をもとに種同定を行う方法)による植食者と寄主植物の種分類を行った。植食者サンプルは、調査地で夜間灯火採集を行うなどして定量的に集めた。集めた植食者サンプルは日本国内に持ち帰り、総合地球環境学研究所の実験施設において、昆虫と寄主植物のDNAバーコード領域を分析した。これまでに、植食者15種30個体で目・科・属レベルの寄主植物の同定を行った結果、植食者6種で複数の科や目を餌(寄主)としていることが示唆された。熱帯では植物上の昆虫密度が低いため、直接観察や飼育による寄主植物の特定は極めて効率が悪く、未知な植物-植食者間関係は多い。本研究は、実際に摂食行動を観察しなくても寄主植物を特定することが可能であることを実証した。したがって、本研究をモデルケースとして、今後、熱帯の植物-植食者の解明が進むことが期待される。また、これまで季節性熱帯林の植食者は寄主植物に特異的であることが知られているが、本研究は非季節性熱帯林ではじめて、植食者が科や目レベルで広食性であることを実証的に明らかにした。この結果は、熱帯の高い寄主特異性と種多様性の実態を考察する上で、異なる地域や生態系間で植物-植食者の群集構造の特性は異なるという新しい視点を与え、熱帯における生物多様性の理解に新地平を切り開くものと考えている。
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