研究課題/領域番号 |
22770030
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小竹 敬久 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20334146)
|
キーワード | 糖ヌクレオチド / GDP-グルコース / グルコマンナン / シロイヌナズナ / 細胞壁 / ピロホスホリラーゼ |
研究概要 |
高等植物の細胞壁には、セルロースやキシログルカン、ペクチンに加えて、グルコマンナンも普遍的に存在する。グルコマンナンは糖転移酵素Cs1Aによって、糖ヌクレオチドであるGDP-マンノースとGDP-グルコースから合成されるが、これら糖ヌクレオチドの合成機構には不明な点が多い。これまでに、GDP-マンノースの合成はVTC1と呼ばれる酵素によって触媒されることが報告されている。本研究では、GDP-マンノースの合成に関わるタンパク質としてKJCタンパク質(KJC1、KJC2)を発見した。kjc1変異体とkjc2変異体は正常に生育するが、kjc1kjc2二重変異体は著しいわい性を示す。また、kjc1変異体ではGDP-マンノース合成活性が10%以下に低下し、細胞壁グルコマンナンが半減する。 平成23年度は、大腸菌により組換えKJC1および、組換えKJC2、組換えVTC1を作成し、これらの酵素活性を調べた。組換えKJC1と組換えKJC2はいずれも活性を示さなかったが、組換えVTC1のGDP-マンノース合成活性(GDP-マンノースピロホスホリラーゼ活性)を顕著に高めることがわかった。これらの結果から、KJCタンパク質はVTC1に作用してGDP-マンノース合成量を高めることが示唆された。 vtc1変異体やC1sa変異体は胚性発生が異常になることが報告されている。遺伝型がKJC1/kjc1kjc2/kjc2の植物の自家受粉で得られる集団について調べたところ、kjc1kjC2二重変異体は5%程度しか出現しなかった。kjc変異によるGDP-マンノース合成の異常は、胚発生か生殖に影響していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初KJCタンパク質自体がGDP-マンノースやGDP-グルコースの合成を触媒すると予想していたが、実際は主要なGDP-マンノース合成酵素であるVTC1の活性を高める働きがあることが分かった。研究提案時の仮説とは少し異なる結果となったが、KJCタンパク質がGDP-糖の合成に関わることは確かめられたので、今後はKJCタンパク質がどのようにVTC1の活性を調節するかについて調べたい。
|
今後の研究の推進方策 |
KJCタンパク質はVTC1の活性を調節していると考えられ、実際にkjc1変異体ではGDP-マンノース合成活性が野生型の10%以下に低下する。しかしながら、in vitroの実験(大腸菌で作成した組換えタンパク質の実験)では、VTC1とKJC1の共存下とVTC1単独では、活性は数倍しか違わなかった。植物生体内では、KJCタンパク質は、VTC1の安定性にも関わっている可能性がある。また、GDP-マンノースはビタミンCの前駆体やN結合糖鎖の原料としても利用されている。kjc1kjc2のわい性形質や胚性致死または生殖異常には、グルコマンナンの減少だけでなく、ビタミンCやN結合糖鎖の欠乏・異常が関わっている可能性がある。3年目となる24年度は、これらも踏まえて、KJCタンパク質の生理的重要性を明らかにしたい。
|