海洋性ラン藻には亜硝酸還元酵素遺伝子の下流に亜硝酸イオン輸送体をコードしていると推定される遺伝子focAが存在している。海洋性ラン藻のfbcAを、亜硝酸イオン輸送活性をなくした淡水性ラン藻に導入した場合、淡水性ラン藻で亜硝酸イオン輸送活性の出るものと出ないものに分けられ、活性のでないFocAにはそのC末端に保存された領域が存在した。このC末端領域を削ったFocAを、淡水性ラン藻細胞内で発現させると亜硝酸イオン輸送活性を持つことから、このC末端領域が輸送体の活性を制御していることが示唆されていた。このC末端領域と相互作用する因子を膜内在性タンパク質の相互作用を解析できる酵母two-hybrid system(Split-ubiquitin法)により探索したが、新規候補因子は得られなかった。 C末端保存領域をもつfocA遺伝子の5'側と3'側にはそれぞれ機能未知であるがよく保存されたORFが存在する。C末端保存領域をもつfocA遺伝子が機能を発揮するには、別の遺伝子産物が必要である可能性があるため、亜硝酸イオン輸送活性をなくした淡水性ラン藻に、これらのORFとfocA遺伝子をともに導入したが、亜硝酸イオン輸送活性を示さず、これらのORFとfocAだけでは輸送活性を示さないことが分かった。そこでさらに、この株にランダムにラン藻のゲノムを組み込んだ発現ライブラリーを導入し、亜硝酸イオンを窒素源とする培地でスクリーニングした結果、亜硝酸イオン輸送能を有する株を2株単離できた。そのうちの1株では、focA自身に終止コドンが導入されており、C末端保存領域を欠いた輸送体が発現するようになっていた。もう1株の発現ライブラリーには新規膜タンパク質をコードする領域が挿入されており、この膜タンパク質はFocA非依存的に亜硝酸イオンを取り込むことが明らかになり、新規亜硝酸イオン輸送体であることが示唆された。
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