研究概要 |
葉緑体は、自身の機能や分化の状態に応じて細胞内へと情報を発信する。しかし葉緑体からどのような因子を介して情報が伝達されているかは未解明な部分が多い。本研究は、葉緑体からの情報伝達因子としてカルシウムイオン(Ca2+)に着目し、Ca2+シグナル発生の分子機構を解明することを目指している。これまでに、Ca2+結合性発光タンパク質イコーリンを発現させたシロイヌナズナを用いたサイトソルCa2+濃度測定系を立ち上げ、赤色光によりサイトソルCa2+濃度が上昇すること、このCa2+上昇は光合成電子伝達阻害剤DCMU, DBMIBにより阻害されることを示している。当該年度は葉緑体関連突然変異体を用いた以下の解析等を行った。 1) Ca2+上昇に対する葉緑体の関与を調べるため、野生型および斑入り突然変異体var2の葉を用いて赤色光によるCa2+濃度変化を調べた。野生型では赤色光照射によりCa2+上昇が見られたが、var2変異体の葉緑体の未発達な葉では、ほとんどの場合Ca2+上昇が抑えられた。ただし、葉緑体の未発達な葉でもCa2+が上昇する場合があった。以上から、赤色光によるCa2+上昇には葉緑体が関与するが、他の光受容体も機能することが分かった。現在、他の葉緑体関連変異体を用いた同様の解析も開始しており、これらの結果により、Ca2+シグナル発生に必要な因子を探索できると考えている。 2) 赤色光によるCa2+上昇がCa2+チャネルを介したCa2+流入によるものかどうかをパッチクランプ法により調べた。葉肉細胞プロトプラストを用いてホールセルを作成し、暗処理後、赤色光を照射し0-200 mVまでのランプ電圧およびステップ電圧をかけた。その結果、赤色光照射開始約30秒後からCa2+電流が観察された。赤色光によるCa2+上昇はCa2+チャネルを介したCa2+流入による可能性が示された。
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