いもち病は全国的に発生する稲の最重要病害である。Pb1は、すでに育種利用されているいもち病圃場抵抗性遺伝子であり、真性抵抗性に関わるRタンパク質と類似の構造を有する。しかしながら、Pb1による抵抗性は、真性抵抗性とは異なり安定で菌系特異性も認められない。このような抵抗性の特性を決定する要因を分子レベルで明らかにし、真性抵抗性との違いを明らかにすることは、Pb1遺伝子の育種利用に重要である。Pb1による抵抗性の特性を規定する要因の一つとして、感染認識から抵抗性発現に至るシグナル伝達が重要と考えられる。本申請研究では、これまでの申請者らの研究で示唆されたPb1からWRKY型転写因子へのタンパク質間相互作用を介したシグナル伝達の検証およびその分子機構の詳細な解明を通じ、Pb1による抵抗性の安定性の分子基盤を明らかにすることを目的としている。 まず、Pb1の抵抗性に細胞内での移行が抵抗性を発揮するために必要か否かを検証した。そこで、Pb1にeGFPを付加した融合タンパク質を恒常的に発現する形質転換イネを作出して実験を行った。この形質転換イネにいもち病を感染させたが、この融合タンパク質のGFPシグナルが非常に低いことから細胞内での移行について明らかにすることができなかった。一方で、Pb1に核排除配列を付加した融合タンパク質を、恒常的に発現させた形質転換イネを作出した。この形質転換植物のいもち病抵抗性を調べると、優位に野生型恒常的発現体に比して抵抗性が低下していた。このことから、Pb1抵抗性には核内に移行することが必須であることが示された。 また、Pb1系統においてWRKY45の遺伝子発現を抑制した形質転換イネを作成した。この植物の穗いもち抵抗性を調べると、その抵抗性が低下していた。これらのことから、Pb1の抵抗性にはPb1の核内への移行が必要であり、WRKY45に依存していることを明らかにした。
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