平成22年度の成果として、(1)交尾中の昆虫サンプル瞬間凍結し、そのままエタノール固定に持ち込む手法、(2)固定サンプルの寒天包埋技術、および(3)BABB溶液(ベンジルアルコール・安息香酸ベンジル混合液)によって外骨格を透明化して観察する手法の確立をおこなった。この手法を組み合わせることにより、雌雄交尾器の対応関係を記載する精度は大きく向上した。しかし、透明化による脱色で、元々着色・コントラストに乏しい膜状構造の細かい立体構造の観察は難しく、適切な染色手法の確立が求められている。昆虫の非着色・非硬化のクチクラを観察するために用いられる酸性フクシンの利用を検討したが、固定した構造を崩すことなく、均一に染色する手法の確立に課題が残った。また、(1)の手法によって固定したサンプルを部分的に剥奪していき、順次走査型電子顕微鏡で観察する手法についても検討をおこなった(順次剥奪法)。電子顕微鏡観察では、硬化した構造も、柔軟な膜構造も同様な表面像として観察される。そのため、順次剥奪法のみの観察では詳細な情報を得ることが難しいが、上記の透明化の手法によるサンプルを参照しながら観察をおこなうことで、双方の手法の長短が補われ、より精度の高い観祭がおこなえることがわかった。 平成22年度のメインの研究材料は、ショウジョウバエ科のキイロショウジョウバエ種亜群(the D.melanogaster species subgroup)を用いた。モデル生物キイロショウジョウバエを含む本グループは、9種からなり、進化研究のモデルシステムとしてよく利用されているが、交尾器形態の進化に関する研究は立ち遅れていた.上記の手法を利用した研究により、9種全てについて、交尾時の交尾器対応を詳細に記載することができ、オスの交尾器形態の種間変異に対応した形態変化が、メスの交尾器の膜質部を中心に生じており、それが交尾時にオスの交尾器と特異的に対応することが明らかとなってきた。
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