暗黒下でも光形態形成するシロイヌナズナのcop1変異体は、光照射下では草丈が低くなる矮化を示す。cop1の矮化は細胞伸長の抑制と茎頂分裂組織の早期の細胞増殖の停止により引き起こされる。光シグナルによる草丈の制御機構の解明を目的に、cop1の矮化が抑制されるサプレッサー変異体emcを単離し、解析を行った。 emc1変異は、cop1変異による茎頂分裂組織の早すぎる細胞分裂の停止を抑制した。cop1変異体は矮化と共に頂芽優勢を喪失し、枝分かれが増加する。emc1変異体は矮化が抑制されても枝分かれの増加形質は維持されたことから、草丈の制御と枝分かれの制御は異なる経路で働いている可能性が示唆された。また、emc1は暗所での光形態形成能を維持したことから、cop1の暗所での光形態形成と矮化経路は独立していることがわかった。 高速シークエンサーを用いた染色体マッピングにより同定したemc1の原因遺伝子は、幅広い生物種で保存されているアルマジロリピートドメインを持ち、核膜孔を介した核と細胞質間の分子輸送に働く輸送レセプターであるインポーチンβファミリータンパク質をコードしていた。シロイヌナズナでは、同じファミリーに属する遺伝子が17個存在する。ファミリー遺伝子には、EMC1と同様に欠損により形態形成に異常が生じるHSTなどの遺伝子が存在するが、EMC1の詳細な解析は報告されていない。ヒトゲノムとの相同解析により、EMC1はtRNAやSUMOタンパク質などの核内外への輸送に働く可能性が示唆された。EMC1のT-DNAタグライン(emc1-t1)とcop1の二重変異体は矮化が抑制されたことから、EMC1の欠損がcop1の矮化を抑制することが明らかになった。
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