研究課題/領域番号 |
22770064
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐倉 緑 神戸大学, 理学研究科, 講師 (60421989)
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キーワード | 偏光視 / ナビゲーション / 太陽コンパス / 昆虫 |
研究概要 |
多くの昆虫は天空の偏光パターンから自らの向いている方角を検出し、それをナビゲーションに利用する。本研究では、脳内の偏光感受姓ニューロンの活動を長時間記録することにより、これらのニューロンが時刻(太陽高度)によって変化する天空の偏光パターンをどのように時間補償しているのかを解明することを目的としている。 本年度は、昆虫がナビゲーション中に偏光情報をどのように利用しているのかを調べるため、拘束したミツバチを用いたナビゲーション行動観察用のフライトシミュレータの構築を行った。シミュレーター内に拘束したミツバチにゆっくりと回転するe-ベクトルの偏光刺激を上部から与えると、e-ベクトルの回転に追随した飛行方向の変化が観察された。このことは、飛行中のミツバチが自らの飛行方向を参照する情報として、情報からの偏光を利用していることを示唆している。そこで、ミツバチの飛行軌跡に応じたフィードバック制御により上方からの偏光刺激を変化させるシステムを構築し、フライトシミュレータに組み込むことを計画中である。 また、偏光視システムの時間補償の実態を調べるため、偏光視の一次中枢である視葉の一部の視髄に存在する偏光感受性ニューロンからの長時間記録を試みた。視髄にはPOLニューロンとよばれる一群の偏光感受性ニューロンがあり、これらのニューロンは両側の視髄に入力部位と出力部位をそれぞれ持つ、特徴的な形態を示す。このため、出力側の軸索を含む視柄から吸引電極による細胞外記録を試みた。吸引電極による多ユニット記録から回転するe-ベクトルの偏光刺激に対する応答を解析することにより、POLニューロンの記録ユニットを単離できることが確認された。そこで、これらのユニットの偏光刺激に対する応答を長時間記録し、応答の振幅やe-ベクトルチューニングが時刻によってどのように変化するかを詳細に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の異動により、当初予定していた機材が使えなくなったため、新たに刺激用および電気生理用装置の構築を行う必要があり、実際の神経活動記録を開始するまでに時間がかかった。また、ナビゲーション行動とコンパスニューロンの神経活動との同時記録を将来的に可能にするべく電気生理学実験に応用可能な行動観察用の実験セットアップを研究目標に追加したため、それにも時間を割いている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在すすめているフライトシミュレータ開発と電気生理学的実験を並行してすすめる。視葉ニューロンの偏光刺激に対する応答を調べる電気生理学的実験に関しては、すでにある程度の見通しが立っており、問題なく研究を遂行できると考えている。フライトシミュレータの開発に関しては、ミツバチにできるだけ自然な状態で採餌飛行を行わせるための工夫が必要であり、まだ大きく改善の余地がある。しかし、将来的に神経活動と行動出力との関わりを明らかにする上で、フライトシミュレータを用いた研究は欠かせないものであると考えている。飛行時に与える視覚刺激の種類やパラメータ、風刺激など別モダリティの外部刺激を種々の組み合わせで試験することで、より現実的な採餌飛行のシミュレーションを目指す。
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