研究概要 |
ハエ目昆虫の幼虫の光受容器としては脳とBolwig's organ(BO)が考えられる.昨年に引き続きナミニクバエにおいて,脳による光受容の可能性を検討するために,脳移植を行った.脳移植に関してはシリアカニクバエについて成功例があるものの,より小さなナミニクバエでは報告がない.ナミニクバエにおいて,脳の移植に伴って非休眠運命も移植される個体も見られたものの,移植後の生存率が低く,十分な結果が得られなかった.そこで移植する場所や傷の位置,傷の付け方や治癒の時間と方法について詳細に検討したものの,生存率は高まらなかった.よってこの方法によって脳による光受容の可能性を検討することは現在では困難であると考えた.より大きなニクバエを用いて検討する必要がある. ナミニクバエにおいてRNA干渉法(RNAi)による遺伝子発環抑制が可能かどうかを検討した.RNAiが可能となれば,概日歩行活動リズムを制御する概日時計遺伝子が光周性に関与しているのかどうかをより直接的に調べることが可能となる.概日時計遺伝子periodそしてコントロールとしてエクジソン受容体EcRと熱ショックタンパク質Hsp70の二本鎖RNAを体腔内に注射し,発現抑制の効果を確認した。Hsp70本鎖RNAの注射では発現抑制の効果が見られたものの,他の2遺伝子では発現掬制の効果が見られなかった.現在,リポフェクタミン等を用いた二本鎖RNA導入の方法を検討している. 長日,短日を見極めるためには概日時計遺伝子の発現の振動パターンが両条件で変化することが考えられる.そこで,periodの発現パターンをそれぞれの条件で飼育した幼虫の全身から抽出したRNAを用いて比較した.他の昆虫におけるこれまでの報告とは異なり,長日,短日間で発現パターンに大きな変化は見られなかった
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今後の研究の推進方策 |
脳移植に代わり,脳における光受容分子の発現をRT-PCRおよび免疫組織化学により明らかにすることで,脳による光受容能についてアプローチする.また,短日長日といった光周期条件が脳の概日時計の振動にどのように影響するかをreal-time PCR法により,より詳細に明らかにする.脳のどの場所に概日時計が存在するのかを,免疫組織化学により検討する.
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