光周性の日長測定のモデルとしては「外的符合モデル」が最も有力であると考えられる.外的符合モデルでは,概日振動体の振動パターンが光周期条件によって変化することが日長測定の基盤となっている.そこで, 本年度はナミニクバエ脳内の概日時計細胞の分布と,概日時計タンパク質PERIODの発現パターンに集中して実験を行った.まず,概日時計の出力に関与すると考えられているPDF(pigment-dispersing factor)に対する抗体を用いて,脳の染色を行った.その結果,脳側方部に4つの細胞体が検出された.続いて,PERIOD抗体を用いた免疫組織化学を行った.PERIOD陽性細胞は,脳側方部ニューロン(LNs)と脳背側ニューロン(DNs)の2グループに分けられた.左右の脳半球にはそれぞれ4個のDNsと5個のLNsが存在した.LNsのうちの4個の細胞がPDFと共存していると考えられた.DNsとLNsのどちらも,明期の始めにほとんどの細胞がPERIOD抗体によって染色され,暗期では染色される細胞数が減少した.この細胞数の違いはPERIODタンパク質の発現量の増減によるものと考えられる.DNsとLNsは同じ光周期に対しても異なる発現パターンを示した.さらに,異なる光周期下では,DNsとLNsは特有のPERIOD発現パターンを示した.特に,DNsではPERIODの発現と明暗周期の位相関係が変化したのに対し,LNsでは時計の振動パターンそのものが変化した(より具体的には染色された細胞数が最大になる時間と最小になる時間の割合が変化した).このことは,光周期情報がDNsやLNsにおいてPERIODタンパク質の量的な変化に変換されることを示している.複数の概日時計の振動パターンが,異なる光周期に反応して,特有の変化を示す.このことが光周測時において重要であると考えられる.
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