昆虫の多様性が非常に高い理由の一つとして、彼らの食性が著しく多様化したことが挙げられる。本研究課題は、キノコ食という特殊な食性を持つショウジョウバエに注目し、キノコ食のショウジョウバエ系統で特異的に認められた遺伝的変異に対し、自然選択がどのように作用したかを検証することを目的とする。 本年度はまず、食性関連因子の分子進化学的解析の基盤となる系統学的情報の収集を目的に、ショウジョウバエの系統学研究で一般的に使われている遺伝子を用いて分子系統樹を構築し、キノコ食およびその他のショウジョウバエ間の系統関係を推定した。その結果、得られた分子系統樹において、キノコ食のショウジョウバエは必ずしも単系統的にまとまらず、ショウジョウバエ科の中で、キノコ食形質が複数回独立して生じた可能性が示唆された。また、キノコ食ショウジョウバエとして有名な分類群のひとつであるDrosophila属のquinaria種群のショウジョウバエは、キノコ食以外のいくつかのショウジョウバエとともに、ある特定の時期に急速に分化した可能性が示唆された。 次に、キノコ食のショウジョウバエで特異な遺伝的変異を検出することを目的に、ショウジョウバエ科12種のゲノムのデータベースから、食性の進化に関わると予想される遺伝子を検索し、得られた配列をもとにPCRプライマーをそれぞれ設計した。そして、キノコ食ショウジョウバエ数種のDNAを鋳型にPCRを行なったところ、AmyおよびOr83bにおいて、安定したDNA増幅が確認された。現在、これらの遺伝子について塩基配列決定の作業を進めている。
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