研究課題/領域番号 |
22770074
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
田中 和明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (60431433)
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キーワード | 菌類 / 系統進化 / 分類学 / 生物多様性 |
研究概要 |
菌界最大級の分類群であり、かつ最も分類学的混乱のみられる小房子のう菌類について、複数の遺伝子領域に基づく分子系統樹を構築する。この系統樹に従前はほとんど利用されてこなかった無性生殖世代(アナモルフ)の形態形質情報を統合することで、有性生殖世代(テレオモルフ)に基づいて考察されている既存の分類体系を再評価し、アナモルフの系統的意義と全生活環(ホロモルフ)からの分類体系再編を試みる目的で本研究を行った。 平成23年度はアナモルフ菌群を重点的に収集する目的で、沖縄県石垣島および西表島にて菌類採集調査を行った(7月)。その結果約200点の乾燥標本と100株の純粋培養株が得られた。これらの大半は現在までに調査不足であった系統群で占められていることから、菌類の系統進化を考察する上で重要な試料が入手できたといえる。またテレオモルフ菌群の試料整備を目的として、東北地方(白神山地、八甲田山周辺)にてブナ目植物の寄生菌類調査を行った(6月~11月)。これにより新規性の高い菌(新属・新種)を多数含む70菌株が得られた。以上の試料収集を進めるとともに、およそ100菌株については18S・28S nrDNAのシーケンス取得とその分子系統解析を進めた。その過程で、2新属・4新種のアナモルフ菌群と、1新科・3新種のテレオモルフ菌群を命名し論文発表した。そのほかアナモルフ菌群のみで構成される新規系統群も見出されつつある。 既存の分類体系を強化するためにテレオモルフ菌群を収集し系統解析すると同時に、現時点では分類体系へ積極的に組み込まれていないアナモルフ菌群について系統考察することにより、ホロモルフからの自然な分類体系を再構築できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規性の高い試料収集を進めるという点では、当初の計画以上の純粋培養株が得られていることから、計画以上に進展しているといえる。それらの試料を使った分子系統解析の面では、RPB2遺伝子のデータ取得がやや遅れているが、全体的にはおおむね計画通りに進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
テレオモルフ菌群およびアナモルフ菌群の両極から系統考察するための試料収集については、平成23年度の集中的な採集調査によって計画以上に進展があったといえる。しかし、試料数が増えたことにともない、分子データを取得すべき菌株数も増加した。これによりRPB2の分子データの取得がやや遅れていることから平成24年度は各遺伝子領域のシーケンス取得とその分子系統解析に重点をおき研究を進める予定である。菌類の場合、DNAデータベースにいずれの遺伝子領域の配列も登録されていない菌種が多いため、形態データにより種同定しなければならない場合も多く、この工程には多くの時間を必要とする。よって収集した試料の同定も重点的に行う。
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