当該年度、下記の3つの内容で有意義な成果を得た。 【日本国内のプランクトン採集】前年度まで国内268湖沼でミジンコ類を採集したが、東海・北陸・庄内地方・下北半島では採集をしていない。当該年度は、これら未採集の地域にある47湖沼でミジンコ類の採集を行った。この結果、国内のおおよその箇所でミジンコ類を採集でき、本研究の目的である日本産ミジンコ類の遺伝的多様性の網羅的な解析に大いに役だった。 【全球規模のゾウミジンコ Bosmina longirostrisの系統地理ー極東域はミジンコ類の生物多様性のホットスポット】前年度までの解析から、日本のBosmina longirostrisは複数の遺伝系統からなり、それぞれの系統の地理的分布には特徴があることが示せた。このことは、極東域は氷期に氷河や永久凍土に覆われず、数万年単位で氷期と間氷期が切り替わる氷河期サイクルを通じて比較的に湿潤な環境を維持できたので、湖沼生物の多様な遺伝系統が残されているという仮説を支持する。本種は、南極半島、南米、シベリア、ヨーロッパ、アフリカなど全球に広く分布する。米露の研究者の協力により世界104湖沼で得られた本種のサンプルも同様に解析した結果、極東域のみに多様な遺伝系統が存在し、それらの系統が種分化の過程にあることが示せた。このことは、極東域がミジンコ類の遺伝的多様性を生み出す一つの中心地であることを明瞭に指し示す。 【日米のゾウミジンコ Bosmina freyiの遺伝解析ー新たな外来種の発見】これまでの解析から、日本で未記載種のBosmina freyiが瀬戸内海沿岸のため池に多く出現することが示された。本種は北米東海岸および南米の湖沼にのみ生息しており、それ以外の地域での出現は記載されていない。日米のサンプルを解析したところ、日本のB. freyiは近年に北米から移入したことが示された。
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