研究概要 |
フグ目及びその近縁群は深海・浅海・淡水域といった多様な生息域を持つ.本研究はミトコンドリアDNA(mtDNA)及び核DNAを用いてフグ目およびその近縁群の系統推定及び分岐年代推定を行い,これらの適応放散過程を明らかにすることが目的である. 2010年度は主にフグ科を対象に解析を行った.フグ科魚類は多くのものが浅海域に生息するが,ミドリフグを含む6属30種ほどが南米・アフリカ・東南アジアの汽水・淡水域に分断して分布している.フグ目の中で淡水域に進出しているのはこのグループのみである.また,本科はトラフグとミドリフグの2種のモデル生物を含むことからも分類の整理や系統関係の解明は急務である,今回は新たに31種のmtDNA配列を決定し,その配列に基づいてフグ科の系統関係と適応放散過程の解析を行った.解析の結果,純淡水種は南アメリカ,中央アフリカ,東南アジアの種がそれぞれ単系統群であったが,生息環境の祖先状態の推定結果からフグ類の淡水域への進出は各大陸で独立して起こったことが分かった,フグ科魚類の多くは淡水環境への適応度が高く,生活史の一部を淡水で送る種も少なくないが,今回の結果よりフグ科魚類は海での生活を完全に捨てることは容易ではないと推測できる.分岐年代推定の結果,淡水域に進出した時期は各大陸で異なっており,それぞれの大陸で海水の淡水域への侵入のような淡水域への適応を促す頻度の低い大規模な地質学的イベントが起こった時期と一致した.したがって,フグ類の淡水域へ進出はこれらの地質学的イベントによって促進された可能性が高いと推測した.また,フグ亜科,ミドリフグ属,シッポウフグ属など,いくつかの分類群は単系統群ではなく,これらの分類は今後再検討する必要があることが明らかになった.
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